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第9回500m美術館賞 審査員講評

第9回500m美術館賞 審査員講評を掲載します。

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500m美術館賞グランプリ審査講評

三橋純予(北海道教育大学美術文化専攻教授)

 

今回は最終に残った4組の展示から1組に絞ることが大変に難しく、グランプリが2組という結果となった。審査過程では多くの議論が行われたが、改めて、500m美術館の特徴的な展示空間の魅力や可能性も感じられた。

 

kugenuma(港千尋+キオ・グリフィス)

今回のグランプリとなったkugenumaは、展示も大型写真コラージュによりスタイリッシュにまとめられており、QRコードを読み取り、スマホ等でダウンロードした音声を聴きつつ、歩きながら展示を見ていく体験的な作品である。

審査では、ジョン・ケイジへのオマージュやラジオ放送とのつながり等の新しい試みが注目されたが、その中でも、500m美術館の特性である「公共空間にある長い通路」と、制限である「音を出せない」という両方の特徴を効果的に取り入れた企画が、今回は高く評価された。地下通路の展示空間を超えて世界中に拡大される作品は、国際公募である500m美術館グランプリ賞に相応しく、この展示空間のさらなる可能性を示してくれた。

 

 

木村直

もう一組のグランプリとなった木村直の作品は、「差別」という社会的テーマに向き合い、ハンセン病療養施設の垣根に使用されていた「柊(ひいらぎ)」に着目したシリーズである。社会的テーマを深く掘り下げ、「柊(ひいらぎ)」に込めた意味を写真、フォトグラムの異なるアプローチから展開したシリーズであり、特に解説では、作家の明確なスタンスを感じさせ、500m美術館の「公共空間」「通路」という特性を活かした展示であった。

歩きながら見ることを意識した額装写真のシークエンスはリアルな日常の再現を狙い、反対に柊のフォトグラムでは幻想的なイメージをインスタレーション的に展示し、解説では具体的なデータを持って客観的に解説していた。

まだ若い作家であるが、テーマへの誠実な取材姿勢が伝わる完成度の高い展示作品であった。

 

 

白川深紅

500m美術館の展示空間で、シンプルに「とにかくこれを作りたい」という若い情熱がみなぎった作品であり、制作意欲が鑑賞者にまっすぐに伝わる作品である。コンセプトを漫画で表したことも効果的であったと思う。皮膚のような伸びる素材にテンションをかけて大きく配置した作品はインパクトが大きく、新しい水墨画の表現としても面白いと感じられた。

プレゼンテーション段階では、初めての試みであることから実現性に少し不安もあったが、最終的にきちんと完成されて美しい表現となった。今回の作品のように、創造的なエネルギーは制作には大切な要素であるので、今後の活動にも期待したい。

 

 

朴炫貞

北大の撤去された橋のアーカイブプロジェクトの一環とした展示プランであり、他のドキュメント記録や活動とつながる興味深い企画で、公共性や地域性からも500m美術館の特性に適していることから最終展示に残った企画である。展示企画プレゼンテーション時にはプロジェクトデータや記録写真を多く見せており、撤去の経緯が視覚的にも理解しやすかったが、最終展示ではそれらを整理したことで、多くの人が関わっているプロジェクトの印象が少し弱くなったと感じられる。500m美術館の展示をみた人が、このプロジェクトにつながる更なる工夫なども、展示期間中に行えってもいいだろう。

 

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500m美術館賞の審査を終えて

—ここだからこその表現とは何か—

 

吉崎元章(本郷新記念札幌彫刻美術館館長)

 

今回はグランプリが2組となった。それぞれの作品の方向性が異なるなかで、
年齢や経歴などではなく、あくまでも作品本位で審査し、議論を重ねた結果である。

この500m美術館は、札幌都心部の地下通路沿いに細長く続くガラス張りの特異な展示スペースであり、公共空間であるだけに何かと制約も多い。この賞も9回目を数えるが、毎回、それらをいかに必然的な要素として作品に活かしていくかがひとつの鍵になっているとも言える。他の審査員の講評とあまり重ならないように、この点を中心に大通駅側から順に各作品を見ていきたい。

 

グランプリのkugenuma(港千尋+キオ・グリフィス)による作品は、この場所では音を出すことができないというデメリットを、〈沈黙〉の場として肯定的にとらえ、スマホでのアクセスによる音源を個別に聞きながら鑑賞する方法を取り入れるという逆転の発想を高く評価した。また、通勤通学で毎日のように作品の前を通る人も多いが、提供される音源が定期的に更新されていくので、何度も楽しめるという点もおもしろい。

 

同じくグランプリの木村直の作品は、写真を横一列に整然と並べることで、被写体となったハンセン病療養施設のあった緑地の垣根やフェンスの連なりを強化し、作品の前を日常的に人々が行き交う500m美術館だからこそ、その隔たりをより強く感じさせるものになっている。また、与えられた2基のブースで展示内容を変えたことも効果的であった。かつて非合理に差別されていたことの痕跡を示し、いまもさまざまなところで無意識的な差別が蔓延していることを問う作品には、ギャラリーではなくこうした場の方がまさに相応しい。

 

白川深紅の作品は、巨大な布を天井からの吊るしと石の重みによって前後に波打つように張ることで、ボックス状の展示空間全体をフルに活用している。テンションがかかった布とそこに描かれたダイナミックな墨画、そして、石。物質性と身体性を充満させた力強さと、空間づくりの繊細さに魅力を感じた。展示場所の上の地上には雪が積もっていることを念頭に、まだ見ぬ北海道の雪を、友人に拾ってもらった小樽の海岸の石の記憶を頼りに表そうというコンセプトはおもしろいが、作品自体からそれがもっと伝わってきてほしかった。

 

朴炫貞の作品は、最近取り壊された北大の橋に関連するプレートやガードレール、写真、図面などが標本のように淡々と並べられている。確かにこのスペースは、美術館や博物館の壁面に据えられたガラス張りの展示ケースと同じようなつくりである。しかし、前面のガラスに貼られた、この橋にまつわるいくつもの思い出話によって、展示物に染み付いた記憶や物語を紡ぎ出し、命を与えている。リサーチベースの作品であるので、もっとさまざまなエピソード素材を集めていたにちがいない。それらをややスマートに整理し過ぎているようにも感じた。さらに深める余地を十分に残した取り組みであり、今後の展開が楽しみである。

 

500m美術館には、私も常設化検討の段階から長く関わってきたのだが、この500m美術館賞は、この場所の全国的な知名度アップと、我々が未知の作家による場の可能性を広げる斬新な表現を期待する重要な事業として位置づけてきたと記憶している。展示人数や一人あたりのスペース変更などいろいろと規定を変え、試行錯誤するなかで、次回でちょうど10回目を迎える。

今後どのように継続していくべきか、現状を見つめながら、この賞のさらなる特徴づけと意義を改めて考える時期に来ていると感じている。

 

 

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500m美術館審査を終えて

 

 

荒木夏実

 

 

kugenuma(港千尋+キオ・グリフィス)は今回一番キャリアのあるアーティストユニットとして高いクオリティを見せた。北海道の大地を写したモノクロ写真のインスタレーションに見る人を強く惹きつける力がある。QRコードを読み込むとLチャンネルから鵠沼海岸、Rチャンネルからロサンゼルスのターミナル・アイランドで採取された音が聞こえてくる仕掛けも面白い。ジョン・ケージと武満徹の特集もこの「ラジオ」で発信される。札幌に行かずとも音を通して作品を鑑賞することができる試みだ。

 

 

グランプリのダブル受賞となった木村直は、ハンセン病療養施設である国立療養所多磨全生園の柊木の垣根やフェンスを被写体とし、「隔離」の形を視覚化した。整然と並べたゼラチンシルバープリントのシリーズとともに展示した、現場の柊木そのものを写し取ったフォトグラムのインパクトは大きい。概念ではなく、そこにいる人々の存在および隔離の歴史と現在をはっきりと物語っている。読みやすく掲示された療養所に関する解説を含め、社会的問題提起の展示を公共空間で行った意味を評価したい。

 

 

朴炫貞の《アノハシ》は、老朽化により撤去された北大のキャンパスをつなぐ跨道橋をテーマに、人々の記憶に残る橋のイメージを可視化するプロジェクト。着眼点のユニークさに比して展示表現がやや弱い印象を受けた。コロナ禍という不利な状況によって、十分な数のコメントや資料が得られなかったであろうことが想像できる。1972年の札幌冬季オリンピックに関連して作られた橋が、ひっそりと忘れられていく50年の歴史を見つめるプロジェクトは魅力的である。継続と発展を期待している。

 

 

白川深紅による「皮膚のような掛け軸」を表現する試みは、500m美術館の横長のロケーションにマッチしていた。北海道の石を道内に住む友人に拾ってもらい、石の記憶を頼りに新しい山水のイメージを描くという発想や、それをわかりやすく鑑賞者に伝える漫画による解説も評価できる。直感と構成力は優れているがより深い考察が感じられるとよかった。山水画の歴史や石と大地との関係性、北海道という場所についての意味などについてじっくり向き合ってほしい。今後のアーティストとしての成長が楽しみだ。

 

 

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第9回500m美術館賞 グランプリ決定

第9回500m美術館賞入選展が2月12日からはじまり、
3名の審査員によるグランプリ選出の審査が行なわれ
グランプリ賞は、下記の2組に決定いたしました。

■第9回 500m美術館賞 グランプリ

kugenuma(キオ・グリフィス+港 千尋)

木村直

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第9回500m美術館賞グランプリは2月14日に発表します

第9回500m美術館賞 入選展を2月12日から入選者による展示を開催しています。

 

実際の作品審査でグランプリを決定し、500m美術館ホームページにて2月14日に発表します。

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「せんと、らせんと、」キュレーターによる作品と展示の解説

2021年12月11日より2022年2月2日まで、
札幌大通地下ギャラリー500m美術館において
「せんと、らせんと、」6人のアーティスト、4人のキュレーター を開催。

2021年12月12日 NPO S-AIR主催による
「北海道・札幌の文化と作品制作―キュレーターの視点から」が行われ、
その記録映像をご提供いただきました。

映像のなかでキュレーター4名による「せんと、らせんと、」の
作品と展示の解説があり、一部抜粋した映像を公開します。

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500m美術館vol.37 第9回500m美術館賞入選展

500m美術館vol.37

第9回500m美術館賞入選展

 

会期|2022年2月12日(土)~4月13日(水)

会場|札幌大通地下ギャラリー500m美術館

札幌市中央区大通西1丁目~大通東2丁目
(地下鉄大通駅と地下鉄東西線バスセンター前駅間の地下コンコース)

時間|7:30~22:00

主催|札幌市

企画運営|CAI現代芸術研究所/CAI03(有限会社クンスト)、一般社団法人PROJECTA

 

入選作家

kugenuma(キオ・グリフィス+港千尋)
木村 直
白川深紅
朴炫貞 [パク ヒョンジョン]

 

審査員

ゲスト審査員
荒木夏実(キュレーター・東京藝術大学准教授)

審査委員長
三橋 純予 (北海道教育大学岩見沢校美術文化専攻教授)

審査員
吉崎 元章(本郷新記念札幌彫刻美術館館長)

 

500m美術館では現代アートの作品プランおよび企画プランのコンペティション「第9回 500m美術館賞」を実施し、4組のアーティストが入選。2月12日から4組の入選者による展示を開催。実際の作品展示による審査でグランプリを決定し、500m美術館ホームページにて2月14日に発表します。

 

作家プロフィール

 

kugenuma(キオ・グリフィス+港千尋)

2016 年より活動を開始。ひとつの素材をもとにそれらを育む素質の多様性、セミオティクスの仕掛け、展開の限界値を探りながら呼応制作を方法論としている。インスタレーション、zineの制作、パフォーマンスなど表現方法は幅広い。代表作に夏至に向かって延びゆく日没時間をタペストリーの解かれた糸で測定表現した「vyakya」(2016)、実在の人物を素材とした「life of bryan」(2019)などがある。

 

 

木村直

1998年生まれ、埼玉県在住。

東京藝術大学 美術研究科 先端芸術表現専攻 修士課程 在籍

「国立ハンセン病療養所の記録と継承」と「見ない暴力」「見る暴力」を主軸に、写真・映像・インスタレーションを用いて制作を行う。母が大学生の頃、国立療養所沖縄愛楽園(ハンセン病療養所)に行ったことがきっかけで、2 歳ごろから両親に連れられて、国立療養所沖縄愛楽園に訪れる。 主な展覧会に2021年「ATLAS展-2021-」(東京藝術大学食堂ギャラリー/茨城)、2020年個展「2019年度東京造形大学卒業研究・卒業展 記録と継承 沖縄愛楽園と宮古南静園」(沖縄愛楽園交流会館/沖縄)など

 

白川深紅

1998年東京都生まれ。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科在籍。

作品制作・展示行為を「身体の拡張」と捉え、次々と建ち顕れる境界を紡ぐ有機的な表現を探求している。昨今は、生まれた時から表現の場であったデジタル世界では表現しきれない重さや感触、存在感を求めて日本美術史の文脈を踏まえつつ素材研究に取り組んでいる。祖父の遺骨を砕き作品にした絵画『ストゥーパ』に端を発する人類遺骨画材化計画や、朽ちることを前提にデザインした恵比寿駅ガード下壁画制作など多領域にわたり活動中。

 

朴炫貞 [パク ヒョンジョン]

1984年生まれ、札幌市在住。韓国芸術総合大学および武蔵野美術大学大学院で学ぶ。博士(造形)。北海道大学 CoSTEPでアートを通した科学技術コミュニケーションの実践研究として、企画運営および作品制作を行う。言葉の間、生と死の間、時間の間、国の間、科学とアートなど、様々な境界におけるモノコトを様々な手法で記録することに関心を寄せる。記録のなかで見えてくる、普通が特別になる瞬間を集めて、記憶の空間として体験する作品を目指している。現在大学の古い温室をフィールドに「アノオンシツ」プロジェクト(2020~)を進行中。

 

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500メーターズプロジェクト搬入風景

500m美術館 vol36 500メーターズプロジェクト008
「おこもろいな」—そんなこともあったね—
搬入風景