第8回札幌500m美術館賞のゲスト審査員である服部浩之氏の総評を以下に公開いたします。
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服部浩之|総評
(インディペンデントキュレーター・秋田公立美術大学大学院准教授・第58回 ヴェネチア・ビエンナーレ 国際美術展日本館キュレーター)
4名の作品はどれも質が高く、表現手法や媒体も様々でバラエティに富み、とても充実した展覧会となっています。
大橋さんは提案プランをほぼ完璧に実現し、若手ながら構想をかたちにする力があり、その完成度の高さに驚きました。また、この500m美術館で展示をする根拠も明確で、この展覧会にふさわしい作品でした。ただ、独自に組み立てたルールと論理のもとモノの立体化や配置をある程度厳密に決定しているにもかかわらず、立体で表現された大きな標識が明確な理由のないままに傾けられて設置され独特な存在感を放ち目立ってしまい、そこが惜しかったように思います。
木村さんも最初の提案をほぼそのまま実現し、完成度の高い展示となっていました。高い造形力もさることながら、パネルや角材が毛羽立つ表現は彼にしかできない唯一無二のもので、生き物のような生々しさがありました。津軽海峡を横切る動植物の境界であるブラキストン線の存在に着目し、北限となる青森の猿と南限となる北海道のヒグマをモチーフとし、人と猿やヒグマの関係に注目した着眼点は鋭かったです。しかしながら、その関係が二つのガラスケースで猿と熊を対比的に扱うに留まり単純化されてしまったため、500m美術館で展開する根拠が少し弱くなってしまいました。もう一段階深いリサーチのもと展示を組み立ててもらえればと感じました。
西松さんは、プラン段階では要素が多く、これから詳細を練っていくという感じで、完成度よりは最終的な作品の飛躍に期待をしていました。その期待通り、絞り込まれた要素によりミニマルだけれど人の想像力を喚起し、鑑賞者の脳内に風景を立ち上がらせるような展示となっていました。諸々削ぎ落としたため、なにげなく置かれた川の写真が少し浮いてしまった印象があります。写真が担うべきものを、テキストや石・石鹸で補い、もう一段階シンプルにしたほうが強度がでたのではと思いました。
グランプリを受賞した川田さんは、プラン提案時から大きな飛躍があって想像以上の作品が提示されていました。複雑な奥行きのある作品で、《都市の奥、Time Capsule Media》というタイトルも喚起力があります。大橋さんが500m美術館の真上にある特定の場に着目し、それを展示空間と結びつけて場や空間の特性に直接的に応答したのに対して、川田さんは非常に具体的な都市の日常の風景を切り出しながらも、それがどこかという場所を特定させることはなく、それによって逆に人の想像力を刺激するものがありました。破れかぶれの石膏ボードは、都市がこれから直面するであろう社会問題とそれに伴う荒廃した近い将来の風景を暗示しており、その奥に見え隠れする現在と思われる風景の危うさが強いイメージとして残りました。ところで、タイトルの一部となる「Time Capsule」は未来に掘り起こされるものです。このタイトルは、荒廃しようが私たちの生活は続くし、どんなかたちであろうと未来をなんとか手にしていかなければという未来への希望を感じさせるものもありました。絵画をベースとしながらもこれまでにない壁画のあり方を提示していることも含めて、500m美術館で展開する意義のある作品でグランプリにふさわしいと考えました。
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以上となります。
展覧会の詳細は以下をご覧ください。